優れた技術を、社会に届く製品やサービスへ。そして、持続的に成長する事業へ。ディープテックスタートアップがその道のりを進むためには、技術開発に加え、量産や販路開拓などさまざまな課題を乗り越える必要があります。そのために、自社の強みを磨きながら、誰と、どのように連携していくことが必要なのでしょうか。
10月2日、STATION Ai(名古屋市昭和区鶴舞1丁目2−32) にて、『MEETUP CHUBU』Vol.91と連携し、「Aichi Deeptech Launchpad 2026」に採択された5社が登壇するミートアップを開催しました。各社の研究開発や事業化に向けた取り組み・協業の可能性を紹介し、県内外の事業会社をはじめとする参加者と協業の端緒を探るなど、愛知県内外のディープテックを一層盛り上げる機会となりました。トークセッションでは、M&Aを活用した成長戦略を、実例を通して語られました。
本記事では、当日披露された5社の事業と技術、また進行中の挑戦等を振り返りながら、技術の可能性を事業の成長につなげるための連携のあり方を探ります。
開会の挨拶
冒頭では、愛知県経済産業局 革新事業創造部長の石田浩久氏が登壇し、県のスタートアップ支援施策を紹介しました。
愛知県では、2018年に策定した「Aichi-Startup 戦略」のもと、スタートアップ・エコシステムの形成を推進しています。石田氏は、2023年度から実施する「Aichi Deeptech Launchpad」を通じた研究開発・事業化支援をはじめ、創業時の資金面の支援や、海外の支援機関・大学との連携など、県の取り組みを説明しました。
また、会場となったSTATION Aiについて、スタートアップ約760社、パートナー企業約390社が参加する拠点として紹介。あわせて、12月15日から17日に開催予定の「Tech GALA Japan 2026:BEYOND」を案内しました。世界中からイノベーションを牽引するリーダーや多様なプレイヤーが参加する機会を通して、次世代のコミュニティ形成を目指す場に期待が高まります。
採択スタートアップによるピッチ
Crafton Biotechnology株式会社 /渡辺 勇人氏

通院の大変さ、注射による痛み、副作用に悩む患者様の負担を軽減するため、抗体薬の次世代化に挑戦しています。現在使われている抗体薬は、自己免疫疾患や慢性疾患などの治療に有効な一方、繰り返しの投与が必要となります。患者様によっては2週間に1回程度の投与や、点滴のための通院が求められるなど、治療を続ける上での負担が課題となっています。
この課題に対し、私たちは、超高純度mRNA「PureCap®」と針を使わないジェットインジェクターを組み合わせた「mRNA治療ワクチン」を開発しています。mRNAを投与し、患者様の体内で抗体を産生していくというもので、頻回投与が必要な抗体薬に代わる治療の実現を目指しています。
mRNAの純度を高めることで体内で必要なタンパク質を安全に効率よく作り出すことを可能にする技術「PureCap®」と、不純物の低減による炎症反応の抑制を両立し、治療効果を高めながら副作用を抑えることを実現します。
現在はmRNAの設計・製造基盤を整え、疾患モデルでの薬効評価や臨床開発、投与デバイスの実用化に向けた体制構築を進める段階です。マーケットとしては、対象となる”繰り返し投与型抗体医薬”の市場規模を15兆円超と見積もっており、愛知県内で研究開発・製造を行い、県内の企業や大学、臨床機関と共に、愛知県を起点としたバリューチェーンを構築していきたいと考えています。
製薬企業様とは抗体医薬の標的探索や共同開発、CDMO・化学メーカー様とはmRNA原料開発や製造の拡大、医療機器メーカー様とはジェットインジェクターに関する協業など、各社の強みを生かした協業をご一緒させていただきたいです。共同研究や共同開発に加え、パイプラインの導出など、多様な形での連携を希望しておりますので、ぜひお声がけください。
Q:治験、臨床はこれからでしょうか?
A:国から受託した新型コロナワクチンの第1相試験を来年開始予定です。
iBody株式会社 /天草 陽氏

がん、自己免疫疾患、感染症などの診断・治療に重要な役割を担う抗体。私たちは、独自の抗体探索技術を用いて、それらの開発にイノベーションを起こし、加速させていくことを目指しています。
抗体を応用する時には、良い抗体を見つけてくる必要があります。抗体作製技術はここ数十年で大きく発展してきましたが、従来の技術だとアクセスが難しい抗体の存在や、機能が不十分であること、抗体作製に時間がかかるなどの課題が残っています。こうした抗体開発のボトルネックを解消するため、私たちは、迅速で網羅的な抗体探索プラットフォームを提供しています。
どのようにして良い抗体を得られるのかー。技術の特徴は、抗体を作るB細胞を1細胞レベルで評価し、良い細胞を選ぶ技術と、生きた細胞を使わず試験管内で抗体のタンパク質を発現させる技術を組み合わせていることです。細胞の培養・増殖工程を省くことで、良い細胞の脱落を抑え、優れた抗体を取りこぼさずに、短期間で網羅的に取得することを可能にします。ウサギやヒトの検体、アルパカなどにも対応し、従来技術では取得が難しかった抗体の探索にも取り組んでいます。
実際に、がんの診断デバイス開発を行う企業様のケースでは、5年間様々な技術を試しても得られなかった目的の機能を持つ非常に高機能な抗体を、弊社の技術によって数か月で取得した事例があります。取得に数年かかっていたものを数ヶ月に縮め、できなかった開発を進めることに繋がったという、まさに弊社の技術がボトルネック解消に繋がった事例です。
現在は受託研究サービスを中心に、製薬・診断薬開発企業様との連携を拡大しています。今後は、技術の幅を広げ、より価値の高い抗体開発に取り組んでいきたいと考えています。抗体を見つける技術に加え、抗体の改良や評価などに強みを持つパートナーと組むことで、より幅広い開発ニーズに応えていく予定です。
Q:今後どのくらいのスパンで製薬・診断薬開発企業と開発を行っていくのでしょうか?
A:弊社が担当するパート(良い抗体を見つける)で言うと約半年です。
株式会社ソラマテリアル/ 大里 智樹氏

弊社では、非常に軽量な素材の開発を行なっております。主に次世代産業の核となる宇宙・空の技術領域における「重さ」の課題を解決するため、最も軽いものでは、空気の半分程度の密度を持つ”超軽量機能素材”を開発しています。ドローンなどのモビリティでは、本体を軽くすることが、より多くの荷物を積み、遠くまで運ぶことにつながります。軽さと機能性を両立する素材によって、軽さが求められる領域における技術的なボトルネックの解消を目指しています。
現在、特に力を入れているのがドローン向けの電磁波対策です。通信や制御に電磁波を使うドローンでは、ノイズの影響によって正常な動作が妨げられるおそれがあります。そこで、ドローンの頭脳に当たるフライトコントローラーやGPSなどに用いる対策材料を開発し、重量の増加を抑えながら、電磁波による影響を低減することを目指しています。
素材は電磁波対策に加え、断熱・吸音などの機能も備え、自動車や航空機、家電などへの応用も進めています。また、大型化や形状を自由に作成できることも特長で、三次元形状やくりぬきなどにも対応可能です。最終製品に近い形に成形するニアネットシェイプ成形の精度向上にも取り組み、設計がある程度固まった後の細かい擦り合わせにも対応しやすい素材となっています。
製品化・量産化に向けては、生産時の品質のばらつき改善や評価方法の確立を進めていきます。
今後はEMC試験での規格超過など、電磁波対策に課題を抱える企業の皆様と製品づくりに取り組んでいきたいと考えています。どうぞ、よろしくお願いいたします。
Q:断熱・防音という特長について、どのような協業を考えていますか。
A:断熱は航空機、家電(冷蔵庫)、防音では自動車関係でのお問い合わせが多く、ご一緒できる可能性を感じております。
株式会社ThermieL/ 藤田 涼平氏

弊社は、名古屋大学発の技術を活用した計測装置の開発と、受託測定サービスを展開しております。社会課題でもある”半導体の中における発熱”の課題に対して、計測技術で貢献することが弊社のミッションです。
例えば、生成AI向けのサーバーの発熱問題には、水資源の枯渇・冷却能力が足りないといった現状があります。どれくらいかというと、スペースシャトルの先端の発熱密度をすでに上回っており、今後もうなぎ上りに上昇するとされています。今まさに「冷却していくこと」が求められています。
こうした背景のもと、私たちの計測技術は、冷却のボトルネックがどこにあるのかを可視化し、課題の解決に貢献します。半導体で発生した熱は、複数の部材や接合部分を経て外部へ逃がされます。その放熱構造は複雑なため、実際の測定で熱がどこで伝わりにくくなっているのかを把握することは容易ではありません。
これに対し「ロックインサーモグラフィ式レーザー周期加熱法」という技術を名古屋大学で開発してまいりました。これは赤外線カメラで温度応答を録画し、その録画データに対して信号の解析を行うことで熱伝導率を可視化する技術です。我々の強みとしては、熱伝導率などの物性を「測る」技術から、「見る」技術へと昇華させたことです。メインフィールドとしては、熱計測市場の250~500億円の市場となりますが、その上の熱マネジメント市場の2~4兆円・そして半導体市場という大きなマーケットを支える、研究開発のインフラ企業を狙っております。
現在は、受託測定サービスを展開しております。中でも「界面熱抵抗」という、材料と材料の間で、どれくらい熱伝導としてブレーキがかかっているのかということを捉える点において、強いニーズを感じております。
また、機密性の高い製品を社外に持ち出せないという顧客の声に応えるため、顧客の拠点で使える計測装置の製品化も推進しています。
今後は、製品導入につながるようなPoCを実施していきたいです。例えば、半導体・電子部品・放熱材料・自動車部品メーカー様とともに、熱課題の可視化から現場導入へとつなげていくべくPoCを推進していきたいと考えています。アカデミアでは、ISO・JISなどの標準化に向けた取り組みも進めています。
Q:相談してから測定まではどのようなステップが必要ですか?
A:まず材料情報をいただき測定可能かどうか判断し、測定期間は難易度によっても変わってきますが、最短半月ほどで測定結果をお返しするケースもあります。
株式会社fff fortississimo/ 入澤 寿平氏(動画登壇)

金属と比べて軽く、高い強度を持つ炭素繊維。この炭素繊維を樹脂と組み合わせた「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」は、さまざまな製品や構造物の軽量化を支える材料です。同社は、炭素繊維であふれるサステナブルな未来を目指し、岐阜大学と密接に連携しながら、高性能と低コストを両立したCFRPの開発に取り組んでいます。
これまでCFRPの需要拡大を牽引してきたのは、風力発電用の風車などでした。今後は、燃料電池自動車に搭載する水素貯蔵タンクや自動車用途、ドローンなどへの利用が期待されており、CFRPの市場は、2020年から2035年で約3倍にまで拡大すると予想されます。
一方、普及の障壁となっているのが高い価格です。軽さや強さという優れた特徴があっても、他の材料に比べて価格が高く、普及には低コスト化が必須です。特に水素タンクでは、コストの約6割を炭素繊維が占めるとされ、炭素繊維の低コスト化は、燃料電池自動車の普及を後押しする上でも重要な課題となっています。
この課題に対して弊社は、岐阜大学と連携するNEDOプロジェクトで、炭素繊維の製造コストを1kg当たり4,500円から1,000円へ引き下げることを目指しています。同大学が保有する炭素繊維のパイロットラインを活用し、製造工程の簡略化や安価な原料の使用に取り組んでいます。
また炭素繊維は、国内で安定的に生産・供給できる体制の確保が重要な戦略的物質です。弊社には、大学の研究者に加え、炭素繊維製造の経験を持つ人材が集まっています。研究と製造の両面の知見を生かし、低コスト化と国内生産体制の構築に挑戦しています。
この挑戦に関心をお持ちの方、私たちの目指す未来に共感いただける方は、ぜひお声がけください。
トークセッション:EXITで終わらせない、M&Aを活用した成長戦略

後半のトークセッションには、株式会社シンクロボ代表取締役社長の小倉崇氏と、フォースタートアップス株式会社 CEO室 営業兼企画管理グループマネージャーの町野史宜氏が登壇。
「EXITで終わらせない。事業を非連続に伸ばす『成長戦略としてのM&A』のリアル」をテーマに、M&Aを選択した背景と、参画後の事業づくりについて意見を交わしました。
小倉氏は、東京大学大学院でロボットの研究に携わった後、トヨタ自動車やロボットベンチャーSCHAFTで開発に従事。SCHAFTがGoogleに買収された経験も、M&Aに対して前向きな印象を持つきっかけになったと振り返りました。2019年にスマイルロボティクスを創業した後は、上場を目指しながらも、M&Aを現実的な選択肢の一つとして考えていたといいます。
事業を拡大するための資金や量産・販売の体制を検討する中で、ロボット開発を担うシンクロボと、企画・量産・販売の基盤を持つアイリスオーヤマのニーズが重なり、技術を製品として市場へ届ける体制が叶うM&Aに至ったということです。
2026年7月には、法人向けDX清掃ロボット「JILBY(ジルビー)」を発売するに至り、小倉氏はアイリス参画から現在までの実感をの実感を、「資金調達のことを考えずに、エンジニアとして製品開発に集中できるようになった」「技術を開発できることと、製品を広く届けられることは別なのだと実感した」と語りました。
町野氏は、M&Aを単なるEXITとしてではなく、スタートアップの技術・開発力と、事業会社の顧客基盤や生産・販売の力を掛け合わせる成長戦略として捉える視点を提示しました。小倉氏も、M&Aの成立をゴールとするのではなく、その後に何を実現できるかが大切だと語ります。
質疑応答では、投資家とのコミュニケーションや、M&Aの条件交渉で大切にすべきことにも話題が及び、小倉氏は、長く続く関係だからこそ、自社にとって譲れない点を早い段階で伝え、契約内容まで双方が納得できる形にすることが重要だと説明しました。
<登壇者プロフィール>
◆株式会社シンクロボ 代表取締役社長・小倉 崇氏
東京大学大学院情報システム工学研究室にて博士号を取得。トヨタ自動車に入社し、サービスロボットの研究開発に従事。その後、東京大学発のロボットベンチャーSCHAFT(在籍中にGoogleが買収)に参画し、二足歩行ロボットの開発に従事。2019年にスマイルロボティクスを創業。2023年にアイリスオーヤマグループへ参画し、シンクロボへ社名変更。現在は代表取締役社長として、業務用清掃ロボット等の開発を推進。
◆フォースタートアップス株式会社 CEO室 営業 兼 企画管理グループマネージャー・町野 史宜氏
新卒でUSEN(現:U-NEXT HOLDINGS)に参画し、立ち上げ時期のU-NEXT営業部門に従事。 その後、渡豪し、Macquarie University Master of Policy and Applied Social Research修了。 帰国後はレバレジーズにてエンジニア/クリエイターの転職支援事業や教育事業の立案・アライアンスなどを推進。 創業期のフォースタートアップスに参画し、CxO・経営幹部クラス、海外人材のご支援を中心に採用・組織課題解決に向き合う。 スタートアップ関連イベントを自ら企画し、登壇実績も多数。現在はCEO室にてM&A支援事業の立ち上げに従事。
Aichi Deeptechゼミからは、2名が発表
Aichi Deeptech Launchpadでは、ディープテックスタートアップを志す方のためのプログラムとして「Aichi Deeptechゼミ」を開講しています。今回、ネットワーキング中のコンテンツとして、ゼミ生2名によるピッチを実施。会場の多くの方が集まり、宇宙領域・防災DXの2テーマにおいてディープテックスタートアップを目指すお二人の挑戦に関心が寄せられました。
名古屋大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 岡 学澄 氏

「月面拠点建設の前提を測る——小型ロボット群による月面地盤調査」
僕が作りたいのは、「誰もが宇宙へ行ける社会」。そういう社会を、人生をかけてつくります。その第一歩が、月面探査です。私たちは、月面拠点建設の前提となる地盤調査を担うことを目指しています。建設前には、地形、地盤の硬さ・強さ、組成、空間の安定性などを把握する必要があります。これらはいずれも月面での計測が必要ですが、現時点で得られている情報は限られています。そこで私たちは、測る仕組みをつくることを目指しています。現在はシミュレーションと試験機による検証を進めており、まずは企業の皆さまと計測システムを共同開発したいと考えています。地盤を測る技術、小型で堅牢なセンサー、トンネルや下水道など人が入れない閉鎖空間の試験フィールド、そして地盤データを使う建設・建機・ロボット——この4つのいずれかをお持ちの企業の皆さまと、実証や宇宙関連公募への共同申請に向けて、まずはお話を伺わせてください。
名古屋工業大学 工学研究科 教授 岸 直希 氏

「神経網のように事故・故障の予兆を検知する紐状センサー」
人の安全と設備の安定稼働を守り、重大な事故や故障の少ない社会を実現する。そのために、異常発熱を捉える「紐状センサー」を開発しています。
原点は、企業勤務時に製造現場の事故を目にした経験です。事故が起きてから対応するのではなく、予兆を捉えて未然に防ぎたいと考えています。このセンサーは、対象の内部に神経網のように張り巡らせ、長さ方向の温度の不均一性を電圧信号として検知します。
バイオマス燃料の貯蔵サイロを例に、表面や限られた測定点では把握しにくい内部の異常発熱を検知し、登録した連絡先に通知するシステムの実用化を目指しています。
事業化に向けて、設備を保有する企業との実証、製造・加工企業との製品化、施工・保守会社との導入体制づくりを進めたいと考えています。まずは現場の課題共有や、小規模な試作品評価から、ぜひご一緒できればと思います。
終わりに
今回のピッチとトークセッションを通じて見えてきたのは、技術の可能性を事業の成長へとつなげるためには、自社の強みを磨くだけでなく、外部の知見やリソースを柔軟に活用する視点が欠かせないということです。
研究開発から社会実装へと進む過程では、技術の評価・検証、量産体制の構築、販路の開拓など、さまざまな課題に向き合う必要があります。
共同研究や事業会社との協業、資本業務提携、そしてM&A。いずれも、それ自体が目的なのではなく、実現したい未来に近づくための手段です。大切なのは、自社が目指す姿を起点に、何を自ら担い、誰とどのような形で補い合うのかを考えることです。互いの強みを生かして、社会に届く製品やサービスへと育てていく。
Aichi Deeptech Launchpadでは、今後も、今回のミートアップのように、接点が、対話や連携へと発展し、ディープテックスタートアップの次の挑戦へと続く環境づくりや支援に取り組んでいきます。



