研究開発の成果を事業として社会実装していくディープテックスタートアップには、技術力だけでは乗り越えられない壁があります。事業開発、資金調達、量産化、行政・大企業との連携など、成長の過程で求められる機能は多岐にわたります。だからこそ、創業者や研究者だけで事業を前に進めるのではなく、早い段階からCxOや各領域のキーマンとなる人材を巻き込み、成長フェーズに応じた組織をつくっていくことが重要です。

こうした課題を背景に、8月28日、「ディープテックスタートアップ 採用はなぜ失敗するのか」と題したイベントを開催しました。当日は、ディープテック領域のスタートアップが成長過程で直面する採用・組織づくりの難しさと、その突破口について、事例を交えたワークショップとトークセッションを実施。参加者には、候補者が求める未来と、自社が提供できる価値や挑戦機会を結びつけて伝えることの重要性が共有されました。

ワークショップ:採用したい人材をどう定義し、どう口説くか

ワークショップで示されたテーマは、「採用したい人材を定義すること」と「その人材が動く理由を設計すること」。

フォースタートアップスの近藤氏は、「スタートアップ企業にとって、採用は単なる人員補充ではありません。“最初の一人”であるCxOやキーマンを採用できるかどうかで、事業の成功が決まります。」と語りました。

当日は、参加者がそれぞれシートに記入しながら、採用したい人材像やその候補者への伝えるべき魅力を整理・具体化していきました。ワークは、次の3つの観点で進められました。

  1. (1)いまの事業フェーズで本当に必要なCxO・キーマンは誰かを明確にする
  2. (2)候補者が転職や参画を考える背景にある、根源的な欲求を仮説化する
  3. (3)候補者が求める未来や役割に接続する形で、自社の魅力を言語化する

このワークを通じて浮かび上がったのは、採用とは「企業が伝えたいことを一方的に説明する場」ではなく、「候補者が動く理由を設計する場」だということです。年収やポジションといった条件だけでなく、候補者がどのような未来を求め、どのような挑戦に心を動かされるのかを考える。そのうえで、自社の技術や事業が提供できる機会と結びつけて伝えることが、キーマン採用の出発点になります。

トークセッション:採用の成否を分ける、経営者の熱量と組織づくり

後半では、Beyond Next Ventures 執行役員 / タレントパートナー 鷺山 昌多氏とフォースタートアップス シニアヒューマンキャピタリスト/ディープテック支援責任者 齋藤 祐矢氏によるトークセッションが行われました。

<登壇者プロフィール>


◆Beyond Next Ventures 執行役員 / タレントパートナー 鷺山 昌多

2002年クイック入社。ネット事業会社に出向し新規事業を担当。2007年に東京海上日動キャリアサービスに参画し、転職エージェント部門にて大学発ベンチャー専門の経営人材支援事業を立ち上げ、多くの経営チームの組成を支援。2017年にBeyond Next Venturesへ参画。ディープテックスタートアップの共同創業者・CxOを目指す方の発掘や育成を担当。「INNOVATION LEADERS PROGRAM」をはじめとする経営人材育成プログラムの企画・運営をリード。これまでに50名以上のスタートアップ経営者を輩出し、支援チームとして手掛けた出資先企業への人材採用支援は延べ300件を超える。キャリアコンサルタント(国家資格)を保有。

◆フォースタートアップス シニアヒューマンキャピタリスト/ディープテック支援責任者 齋藤 祐矢

機械設計エンジニア、素材系ベンチャーでの開発職を経て、2023年にフォースタートアップス株式会社へ参画。技術的背景を活かし、入社直後から宇宙・ディープテック領域を専門として開拓。3年で社員数10倍へと急拡大した同社宇宙領域の支援をリードする。個人での累計支援数は50名を超え、うち6名のCxO・執行役員クラスの決定実績を創出。2025年にシニアヒューマンキャピタリストへ昇格、同年下半期には全社MVPを受賞。高い専門性を持つトッププレイヤーとして同領域の発展に貢献している。

―企業成長には組織づくりが非常に重要となりますが、採用には長い時間がかかります。だからこそ、候補者の意思決定を後押しするために、自社の魅力を適切に伝えていくことが大切です。では、VCは組織のどこを見て投資判断を行うのでしょうか。

鷺山:私は、事業の初期段階における価値創出は、社長を中心とするエコシステムによって生まれると考えています。ベンチャー企業では、優秀な社長のもとに優秀な人材が集まることが多く、初期メンバーがその不安定な事業フェーズに参画する理由も「社長と一緒に挑戦したいから」というケースが少なくありません。その意味では、周囲にどのようなメンバーが集まっているかを見ることで、その社長の魅力や力量が分かることもあります。

事業実現のために、社長が自分よりも優秀な人材を巻き込みながら、組織を作り上げているかは、VCも注目するポイントです。

齋藤:起業家がどのような想いを持っているのか、なぜその事業を立ち上げたのか。その背景に触れる時間が大切だと思います。私自身も、起業家の話を聞いて心を動かされ、「この人に人材を紹介したい」と思う瞬間があります。

鷺山:投資家も、会社に加わるメンバーも、最終的には「何に賭けるのか」を考えています。例えば、前職よりも高いオファー額を提示したとしても、この会社に未来があると納得できなければ、人は動きません。だからこそ経営者には、事業や組織の可能性を自らの言葉で伝え、候補者に未来を感じてもらうことが求められます。

齋藤:経営センスや、技術を語る力も重要ですが、それ以上に起業家の熱量を伝えられるかが大切です。企業が成長し、人材エージェントを活用した採用を始めるケースも増えますが、採用活動の原動力となるのは、やはり経営者の情熱だと思います。

鷺山:採用活動そのものも大切ですが、それ以上に重要なのは、経営者が新しく採用する人材に何を委ね、既存メンバーとの役割分担をどう見直すかを意思決定し、合意形成を行うことです。既存CxOや執行役員等も、会社の成長に伴い求められる役割は変わり、組織体制の見直しも必要になります。

こうした「ステージチェンジの問題」等は、経営者自身が向き合い、決断する必要があります。

―初期フェーズからCxOの採用を目指す企業は多いものの、報酬面や役割設計の難しさから苦戦するケースも少なくありません。お二人が見てきた採用の失敗例には、どのようなものがありますか。

齋藤:採用活動では、明確な失敗というよりも、採用が滞留してしまうケースのほうが多い印象です。

一方で、うまくいっている企業では、30人規模から1年で倍になり、さらに翌年も倍近くまで増員する企業もあります。重要なのは、会社のフェーズに応じて、どの人材をどの順番で採用するかを考えることです。また成長している企業ほど、目の前の課題だけでなく、将来を見据えて人材戦略を描いています。

終わりに

採用は、会社の未来を左右する重要な経営アジェンダです。しかし、その重要性を理解していても、目の前の業務に追われ、後回しになりがちです。

まずは会社を次のステージへ進めるために、誰を迎え、何を託すのかを決めること。その先で採用の成否を分けるのは、地道なアクションをやり続けられるかどうかです。 候補者を探し、対話し、未来を語る。そして、限られた機会を最大化するために、伝える内容やタイミングなどの細部にこだわる。

採用に近道はありません。会社の未来を変える一人に出会い、ビジョンの実現へ近づくために、試行錯誤を重ねながら、経営者自身が行動し続けることが重要です。