2026年7月29日(水)、「Aichi Deeptech Launchpad Acceleration 2026」の採択者を囲んでのキックオフMeet up イベントを、STATION Ai(名古屋市昭和区鶴舞1丁目2−32)にて開催しました。本イベントは、関係者でのクローズド開催とし、採択者によるピッチ、昨年度本プログラムに採択されたスタートアップ 株式会社IZANAと当時のメンターによる振り返りセッション、ネットワーキングなどさまざまなコンテンツを実施しました。

Aichi Deeptech Launchpad Accelerationとは
Aichi Deeptech Launchpad Accelerationは、愛知県の産業構造と親和性の高い分野のディープテック系スタートアップを中心にハンズオン支援を行い、その技術の社会実装や破壊的イノベーションによる既存市場の転換、社会課題の解決、新規市場の創出を図ることを目的としたディープテック特化型のアクセラレーションプログラムです。
開会のご挨拶
最初に、愛知県経済産業局顧問・柴山政明氏より、開会のご挨拶がありました。
柴山氏:愛知県では、2018年より全国に先駆け、ものづくり融合型の愛知県独自のスタートアップエコシステムの形成に産学官金で取り組んでいます。その中でも中核となるプロジェクトが、2023年より実施しているこのAichi Deeptech Launchpad です。本日セッションに登壇いただく株式会社IZANA、核融合エネルギー領域におけるスタートアップとして注目されている株式会社Helical Fusionも本プログラムの卒業生です。
先日、株式会社セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏からお話をいただいたのですが、今アメリカでは、ものづくりを中心とするビジネスの中で、AIエージェントを前提とした組織づくりのための“4つのR”という考え方が進んでいるそうです。1つ目はRedesign、2つ目はReskill、3つ目はRedeploy、そして4つ目はRebalance。特にReskillでは、AIに関する知識を常にアップデートしていくことが必要となると言われています。AIが存在することを前提にビジネスモデルを組むことが不可欠で、そんな当たり前の世界が2、3年後には日本にも来ると考えられています。今からビジネスモデルを組むスタートアップの皆さんも、AIの存在を前提に考えていただきたいと思い、このお話を紹介させていただきます。と、来場者に語りかけました。

2026年度 採択スタートアップのご紹介
「参加スタートアップピッチ」セッションでは、以下3名のコメンテーターをお迎えし、今年度のAichi Deeptech Launchpadに採択されたスタートアップ5社が、自社のピッチやプログラム期間中に取り組みたいことを発表しました。
<コメンテーターのご紹介>
・PnO代表 岡島康憲 氏
・ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社 ディレクター 原田高政 氏
・CIC Catalyst APAC ディレクター 加々美綾乃 氏
Crafton Biotechnology株式会社/渡辺 勇人氏 によるピッチ

<事業内容>
当社は、名古屋大学・東京科学大学の技術を基盤とするバイオベンチャーです。コア技術である独自の「PureCap®」を軸に、mRNA治療ワクチンによる抗体医薬の実現にチャレンジするため、日本とアメリカに拠点を置きながら、これまでいくつかのマイルストーンを積み重ねてきました。
抗体医薬は、非常に有効な治療薬です。しかし、いくつかの課題を抱えています。1つ目は、頻回投与で、多い場合ですと週1回、最低でも月1回投与しなければなりません。2つ目は、1時間の点滴、もしくは痛みを伴う自己注射をしなければならないことです。そして、3つ目として、投与量に上限があったり、体重に応じて投与量も変わったりすることで、抗体医薬自体も万能ではない状態となっています。
そんな中、投与頻度を減らし、患者負担を低くしながら、十分な効果が出る薬が求められています。それに対する我々の解決策が「mRNA治療ワクチン」です。大規模な工場で複雑な抗体を作るのではなく、患者様にmRNAを投与し、患者様の体内で抗体を産生していくというものです。我々の「mRNA治療ワクチン」は、1回の注射で長く抗体産生が持続することが分かっています。
「PureCap®」はmRNAの純度を高めることで、体内で必要なタンパク質を効率よく、安全につくり出させることを可能にする技術です。ここに針を使わず物理的な力で薬剤を体内に届ける「ジェットインジェクター」を投与方法として用いることで、患者負担の小さい投与を目指しています。
<目指すゴール>
我々のビジネスモデルは、短期的には「PureCap®」のプラットフォームを大手製薬企業等にライセンスアウトすることで収益化を図ります。そして中長期的には、自社の抗体誘導mRNAワクチンパイプラインを譲渡することで大きなアップサイドを狙っていきます。そのために、「mRNA治療ワクチン」による抗体医薬の次世代化の実現に向けて、我々のアプローチが既存の抗体医薬の代替となりうるかというところを、Aichi Deeptech Launchpadで証明していきたいと思っています。
<コメンテーターより>
研究開発だけでなく「社会課題解決」の側面を強化するため、技術導入によって医療費等がどれだけ下がるのか、患者の負担がどれだけ軽減されるのかを数値化・定量化すると、投資家への説得力につながると思いました。mRNAワクチンは新しい技術のため、コロナ禍でも、コロナワクチンに対する科学的・非科学的な不確定情報が錯綜しました。安全性を含めた適切な説明を体系的に行い、社会へ周知・啓発していく取り組みも重要になると感じています。
株式会社ソラマテリアル/大里 智樹氏 によるピッチ

<事業内容>
名古屋大学発のディープテックスタートアップとして、「マテリアルでソラを身近に」というビジョンを掲げ、空気に浮くほど軽い素材「超軽量材」の研究開発および製品開発を行っています。
今回のプログラムでは、主にドローン向けの電磁波対策を主軸とした超軽量機能性材料の生産技術開発と用途開拓という点で採択をいただいております。この非常に軽い材料をドローンの電波対策材料向けに活用していくというのは、技術的にはある程度目処が見えていますので、量産化に向けた生産技術および品質保証等の体制の構築を進めていきたいです。
また、この材料を用いて、航空宇宙開発における技術的ボトルネックを解消することも目指しています。空や宇宙領域への関心が世界的に高まる中、どうしても“重さ”との戦いが課題になっています。1グラムでも軽くしたいこの分野で、いかに軽い材料を提供できるかが重要です。従来、EMC/EMIなどと言われるような電磁波対策では重い材料が用いられることが多いため、ことドローンになると、筐体自体が小さいこともあり、パワーが少ないという懸念点もあり、軽量な材料が期待されています。
<目指すゴール>
今回のテーマは、ドローンを主軸に置き、パイロットラインを作っていくということになります。サイズは機器等に合わせた設計を進める予定です。具体的には、3Dプリンターを用いながら、機器に合わせた柔軟な形状を作成していきたいと考えております。また、電波関係につきましては、製品化した際の品質担保の仕方について確認を進めるという点も一つのターゲットとなります。
今回のプログラムを通して、生産性の改善・品質保証方法の検討・生産技術の開発など、ラボスケールから製品化・量産化に向けた準備をしていきたいと思います。最後に、航空、宇宙、自動車など幅広く活用できる素材であり、これらの領域は基本的には欧州、北米が主戦場になっていきますので、海外展開も進めていきたいと考えています。
<コメンテーターより>
2年前の採択時と比較して製造可能なシートサイズが拡大するなど順調な成長を感じており、ご支援させていただいている身としても嬉しい限りです。素材の面白さと応用範囲の広さが魅力的な技術ですので、既存素材からの置き換えを目指すにあたっては「価格」も重要視しつつ、海外展開についても積極的に支援していきたいと考えています。
iBody株式会社/天草 陽氏 によるピッチ※ビデオ登壇
<事業内容>
iBodyは、独自の抗体探索技術を通じて、治療薬・診断薬開発における「抗体発見」のボトルネック解消を目指す、名古屋大学発のスタートアップです。
抗体は、がんや自己免疫疾患、COVID-19をはじめとする感染症など、さまざまな疾患の治療薬・診断薬に利用されています。一方で、目的とする性能を持つ抗体を効率よく見つけ出すことは容易ではなく、抗体の取得そのものが医薬品・診断薬開発のボトルネックとなるケースも少なくありません。
iBodyは、この課題を独自のEcobody技術®によって解決します。シングルセル解析と無細胞抗体発現技術を組み合わせることで、ヒトや動物の体内でつくられた抗体を1細胞レベルで解析し、有望な抗体を迅速かつ網羅的に取得・評価することができます。
従来の抗体作製で必要となる細胞の不死化や長期間の培養を必要とせず、選択した細胞から試験管内で直接抗体を作製できることが大きな特長です。これにより、生体が本来持っている優れた抗体を取りこぼすリスクを抑えながら、従来技術では取得が難しかった高機能な抗体を、効率的かつスピーディーに発見することが可能になります。
この技術を強みに、これまでに70社以上のパートナーと120件を超えるプロジェクトを実施し、治療薬・診断薬の研究開発を支援してきました。
<目指すゴール>
現在は、製薬企業や診断薬企業などに向けた抗体探索・作製の受託研究サービスを事業の中心としています。今後はこのサービスをグローバルに展開するとともに、Ecobody®技術をさらに進化させ、単なる受託研究にとどまらない事業モデルへの発展を目指します。
具体的には、製薬・診断薬企業との共同研究を通じて、研究の初期段階から開発に参画するパートナー型のビジネスを拡大するとともに、自社で創出した抗体や創薬シーズのライセンス事業にも取り組んでいきます。
今回の支援を通じて新たな知見やネットワークを取り込み、日本発の抗体技術を世界の治療薬・診断薬開発につなげることで、事業成長をさらに加速していきます。
<コメンテーターより>
「作りにくい抗体を作れる」という技術の素晴らしさをもとに、「どこが一番大きい市場か」「どんな抗体をどんな目的で作れば最も売れるのか」を詳しく知れると良いなと感じました。スケールの大きな将来ビジョンを語る重要性はもちろんですが、「足元で狙う目の前の顧客は誰で、そこがどれだけ大きな市場なのか」を明らかにしつつ、本プログラムを通じて、見込み顧客(顧客候補)を拡大していくプロセスをサポートができればと思います。
株式会社ThermieL/藤田 涼平氏 によるピッチ

<事業内容>
我々は名古屋大学発の技術を使った計測技術を展開するベンチャーです。CTOとして参加している名古屋大学の長野教授の技術を基に2025年6月に創業し、私もその技術を学部時代から研究開発しています。
我々が取り組む社会課題は「熱問題」です。皆様がよく使われている生成AI向けGPUの発熱密度は指数関数的に上がっており、「冷却能力がAIの未来を左右する」という現状になっています。ここで計測技術がどう必要になるのかというと、複雑化する半導体の構造、そしてさまざまなプレイヤーが存在する中で、どこが冷却のボトルネックなのかを可視化するために重要になってきます。
我々が参入している熱計測市場は250億~500億円規模ですが、それを支えている熱マネジメント市場は2兆~4兆円規模です。我々はその市場を支えるような研究開発のインフラとして成長していきたいと考えています。
我々は、名古屋大学で開発された独自のロックインサーモグラフィ式レーザー周期加熱法を用い、材料内部の熱拡散状態を2次元・3次元的に可視化する技術を有しています。最も大きな強みは、サーモグラフィによる「熱物性マッピング技術」です。物性をマッピングすることにより、物性を“測る”技術から物性を“見る”技術へと昇華することができました。現在は受託測定サービスを行っていますが、半導体メーカーさんからの要望をもとに技術開発も行っており、それぞれに対して海外向けに特許の出願をしています。
<目指すゴール>
受託測定をきっかけに、実際に装置をお客様のもとで使っていただけるよう、製品開発が課題になっています。売り切りのビジネスというものは計測機器業界でもなかなかスケールしにくい部分があり、製品を売るだけではなく、我々の測定能力を売るという構想を描く必要があります。本プログラムにおいては、ソリューションを提供するような事業化を目指すこと、海外における顧客販路開拓に向けた認知拡大を狙っていきたいと考えております。
<コメンテーターより>
「半導体の発熱計測」を最初の狙い目とした方向性が素晴らしく、非常に優れた技術だと感じています。半導体分野の現状課題をより詳しく語り、それを「熱物性マッピング技術」がどう解決していくかを具体的に示してみてはいかがでしょうか。VC等の投資家向けプレゼンを想定する場合、単に「半導体」と一括りにせず、パワー半導体・ロジック半導体など種類ごとの違いも分かると良いと思います。
また、熱計測・評価市場において「既存技術のどこを具体的に置き換えるのか」、あるいは「熱の可視化によってどんな新しい市場・価値を生み出すのか」という市場獲得の蓋然性を示すことができるとよりイメージがつくのではないかと思います。
株式会社fff fortississimo/入澤 寿平氏 によるピッチ

<事業内容>
名古屋大学発のスタートアップとして、「先端繊維材料をあなたの手に」をモットーに、最先端技術を駆使した繊維材料開発を進めています。まず皆さんにお聞きしたいのが「こんな世界に住みたくないですか?」ということです。<ピッチの際に展開されていたページ>「炭素繊維」を用いればそれが可能となり、こんな未来を皆さんに届けたいという想いで開発を進めています。炭素繊維は樹脂と組み合わせてCFRPという素材として使われ、俗に「カーボン」と呼ばれるものの多くがこのCFRPです。軽量でありながら鉄をはるかに上回る強度を併せ持つ材料です。
今後10年は水素タンクの需要が爆発的に増えると予想されていますが、この業界が抱える課題として「炭素繊維のコスト」があり、高くて使えないという現状となっています。ここに私たちの技術を使うと、製造プロセスの簡略化、製造速度を10倍に、製造エネルギーを1/3にすることが可能となります。
さらに、現在「座礁資源」という、市場の中で価値を失ってしまった資源の存在が注目されています。資源なのでゴミではなく立派な有価物ですので、この座礁資源から炭素材料ができればアップサイクルになると考えています。炭素繊維の原料に使い、私たちの製造プロセスの簡略化と原料を安くするという合わせ技で、製造コストを1/3にできるという試算もしています。
<目指すゴール>
今後、より多くのドローンが必要になると言われていますが、ドローン分野において炭素繊維は必須アイテムです。展開を進める上で一番の課題となっているのが、我々が誰とパートナーを組むのかということです。日本において、「安い炭素繊維を作りたい」という発想のメーカーは少ないのが現状です。どんな企業の方と一緒に大量の炭素繊維をつくることができるのか、アドバイスをいただきながらパートナー探しを行っていきたいです。
<コメンテーターより>
長年実用化が待望されてきた重要な材料であるという点に、まずはとても期待しています。ロードマップと資金・マイルストーンの具体化という点においては、「世界的な需要に対して圧倒的に生産が追いついていない現状」を起点に逆算し、必要な要素と自社の強みを説明していくと、より分かりやすいかと思います。コスト削減目標と、それを実現する生産体制構築のプロセスを明確に語ることで、聞き手が「5年後・10年後にその世界観が本当に到来する」と実感することができるのではないでしょうか。
振り返りセッション:昨年度採択企業IZANAと語る、1年間の歩み

採択スタートアップによるピッチの後は、昨年度の採択企業と当時のメンターであるPnO代表 岡島氏による振り返りセッションを実施。スタートアップには名古屋大学発の株式会社IZANA代表取締役社長CEO 大前 緩奈氏をお迎えし、プログラム参加からの1年間の成果をお話いただきました。
同社は、手のひらにのるサイズの超高感度磁気センサーを開発・販売するディープテックスタートアップ。磁気センサーはスマートフォンにも必ず搭載されている身近な電子部品ですが、同社のセンサーは15,000倍以上の検出感度を実現しています。さらに、高ノイズ耐性、小型・軽量を併せ持つという特長を持ちます。
1年間の主な成果としては、市場を見定めて、「誰に売るのか」を絞り込んだ事業戦略の明確化、知財戦略の策定、ディープテックキャリアフェアを通じた経営人材の採用などが挙げられました。
これからプログラムに取り組む採択企業へのアドバイスとして、「メンタリングや採用、法務、マーケティングなど、本来なら相当のコストがかかるサポートを活用できるのがこのプログラムの価値。貪欲に使い切ってほしい」「ゼロイチが難しいところはたたき台をつくってもらい、それを自社で磨き上げていくのが効率的」といった実践的な方法をご共有いただきました。
岡島氏からは、大前代表の異なる意見やアドバイスをすぐに否定せず、一旦テーブルに置いて俯瞰する姿勢が、プログラムの効果を最大化したのではないかというコメントもありました。このような大前代表の前向きにプログラムを活用しようという姿勢はもちろん、大前代表自身、1年前は「これもやりたい、あれもやりたい」と悶々としていた中で、メンタリングの前半で集中する領域が定まったことが転機になったといいます。国がどう動いているのかという点を確認しながら、自分たちの技術がフィットする点を見極めていくというアドバイスが贈られました。
さいごに
<CIC Catalyst APAC ディレクター 加々美綾乃 氏より>
この事業をスタートして4年目となりますが、毎年、本当に面白く素晴らしい技術を持つスタートアップの皆さんを採択し、それをご支援させていただくということをとても楽しみにしています。
支援することはもちろんですが、もうひとつのミッションとして、スタートアップの皆さんがどんどんこの愛知から出てきて、コミュニティを築いていくことがあると思っています。スタートアップの方と支援者の方が繋がって、お互いに支える場所を作ることも必要だなと思っておりますので、ぜひ積極的にこのプログラムを軸としたコミュニティに注目していただけたら嬉しいです。



