日本のディープテック分野のスタートアップ成長支援に注力している茨城県・千葉県・愛知県・STARTUP HOKKAIDO実行委員会・農林水産省の5団体と共に、ディープテックスタートアップを対象とした2025年度支援事業の成果等を発表し、ピッチやパネルディスカッションを通して広く発信する「Japan Deep Tech Night」。

2月16日にCIC Tokyo(東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー)/ オンラインにて開催され、多様な産業分野・業種から企業、起業家、投資家、研究者、支援者等が集まり、支援事業への理解を深めるとともに、ディープテックの振興と社会実装について、登壇者と参加者がともに考え、意見を交わすイベントとなりました。

今回は、Japan DeepTech Nightより愛知県ディープテック推進事業セッションの様子をご紹介いたします。

Pitch from Aichi 〜2025年度愛知県ディープテック推進事業
「Aichi Deeptech Launchpad」参加企業ピッチ〜

2025年度 愛知県「Aichi Deep Tech Launchpad(ディープテック支援プログラム)」の参加企業が、事業概要やプログラムの成果等をピッチします。同プログラムは、主にプレシード期、若しくはシード期のディープテックスタートアップを対象として、総合的な成長サポート(メンタリング、マッチング、経営スキル研修等)を提供するプログラムです。加えて、総額 8,000 万円(上限 4,000 万円/社)の研究開発経費を支給するなど、ディープテックスタートアップの成長を支援することを目的としています。

冒頭、愛知県経済産業局顧問・柴山政明氏より、このプログラムについて、「愛知県で一番大きい自動車産業に変わるスタートアップエコシステムを作ろうということで、二つの戦略を作りました。一つ目はスタートアップの成長、二つ目が事業会社とのオープンイノベーションです。名古屋市にある、日本最大のスタートアップ支援拠点、『STATION Ai』は2024年10月にオープン後、約一年数カ月でスタートアップが650、パートナー企業合わせて360と、1000を超える企業が集まっています。日本、世界でも類を見ない愛知県から、未来を担うディープテックスタートアップの皆さんが登壇いたします」と、開会の挨拶をいただきました。

【コメンテーター紹介】

MTG Ventures代表パートナー 伊藤 仁成氏

株式会社環境エネルギー投資 プリンシパル 池田 顕史氏

株式会社ウィズグループ 代表取締役 奥田 浩美氏

千葉大学アントレプレナーシップセンター教授 片桐 大輔氏

Aichi Deep Tech Launchpad 参加スタートアップによるピッチ

◆株式会社IZANA 代表取締役 大前 緩奈 氏

株式会社IZANAは、超高感度磁気センシング技術を強みとする名古屋大学発スタートアップとして、これまでに無い磁気センサのソリューションを提供しています。「磁気センサ」とは、我々が使っているスマートフォンの地図アプリにも使われている身近な電子部品ですが、我々の超高感度磁気センサは、原理からの改善により一般的な磁気センサの15,000倍の高性能化を実現しました。また、従来の超高感度磁気センシングの課題にアプローチし、これまでは不可能であった磁気雑音環境下での計測を可能にしました。これによって、例えば工場・ドローンの雑音の横など、従来使用できなかった様々な場所での活用が可能になります。

このような超高感度の磁気センサを使って、製造業における「異物検出」や、「海のセンシング」に取り組んでいます。海のセンシングでは、海中の磁気センシング業務を抱える重い労働者負担、高額な経済的負担を解決したいと考えています。海底環境の調査や資源探査、我々の通信の根本を支えている通信ケーブルの調査や保守点検に使われています。従来の高感度磁気センサは3メートル近い大型のものしか無かった為、大きな船を使って引っ張る必要がありました。それを、弊社の小型の高感度磁気センサに代えることで、水中ドローンに無人化で調査や保守をすることが出来ます。

非常にシンプルな解決策でありながら、それを可能とする磁気センサがこれまで無かったのです。それが、IZANAの超高感度磁気センサでは可能となります。現在我々が提供してきた、「異物混入」を防ぐ検出ソリューションと共に、この海中の磁気センシング業務にて社会貢献をしていきたいと日々開発しています。

<コメンテーターより質問>

今後の開発も、愛知を中心に進められるのでしょうか?

大前氏:ずっと愛知に本社を置き続けたいと思っています。愛知というのは製造業の集積地です。磁気センサの開発において、地場の優れた技術パートナーと密に連携し、互いに高め合える環境がここ(愛知)にはあります。この強固なネットワークを基盤に、愛知県から世界へと、革新的な製品と技術を届けてまいります。

◆FiberCraze株式会社 代表取締役社長 長曽我部 竣也 氏

皆様が毎日当たり前に着ている衣服は石油産業の次に地球を汚しています。我々はその課題を解決するために、「染色プロセス」に着目しました。従来の衣服は、色を染めるだけでたくさんの水とエネルギーが使われています。ご存知の通り、愛知県や岐阜県は日本有数の繊維産地です。我々は50社近い地場企業のネットワークを築いていますが、衣類メーカー各社はこれまで、何度も水で洗い、ボイラーで大量のCO2を排出しなければならない状況にありました。

EUを中心にサステナビリティ対応やルール規制が厳格化する中、我々は新しいプロセスを既存のラインに導入することによってサプライチェーン全体を革新することを目指しています。岐阜大学で30年ほど研究されてきたコア技術を軸に、様々なテクノロジーを駆使して開発した「Craze-tex®」は、染色プロセスにおけるCO2を75%、水を8割最大限削減するというポテンシャルを持っています。環境への貢献はもちろん、エネルギーや水の負荷を下げることは、製造コストの低減にも直結します。

衣類の染色だけではなく、防虫、UVカット、消臭などの付加価値をつけることも可能です。中でも防虫繊維に着目をして、蚊による感染症課題を解決するために、JICA(国際協力機構)をはじめとするパートナーや、地場の繊維産業の皆様と強力に連携し、2026年は一気に開発・普及を加速させていきます。

<コメンテーターより質問>

現在普及している衣服に比べてコストはどのような違いがありますか?

長曽我部氏:既存の製造ラインに、アタッチメントのような形で導入するというスタイルをとっています。実質コストを考えても、アタッチメント分だけが費用に乗ってくるという形になるので、そこまでコスト負担は大きくないと考えています。既存の繊維よりもコストが下がるように数値ベースで目標を立てながら進めています。

◆Helical Fusion 執行役員COO 久保 洋介 氏

Helical Fusionは、核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)の社会実装を目指すスタートアップです。太陽の中では、「核融合」と呼ばれる反応により、膨大なエネルギーが生み出されていますが、我々はその反応を地球上で人工的に再現し、直接エネルギー源として利用していく仕組みを作ろうとしています。自動車産業におけるトヨタ自動車のように、システムインテグレーターとして、様々な事業会社、協力企業の皆様と新たな産業を作っていくことを目標にしています。

核融合エネルギーの社会実装は、人類をエネルギー制約から解放するものだと確信しています。実際にアメリカ、中国、ヨーロッパ等の国々が国家級の資金を投じて開発を進めています。「フュージョン発電炉」というものは、いわゆる巨大な精密機械であるので、ソフトウェアの課題以上に、「実際に形にできるか」という製造技術が勝負の分かれ目となります。

そこには、複雑な三次元曲面を構築する技術、溶接設計、高精度な加工技術が不可欠です。これまで航空宇宙、精密機械産業を有している愛知県だからこそ世界最高レベルの立体構造物が作れるのではないかと。日本のものづくり企業がいかにして新しい産業を切り拓いていくか――。私たちは今、まさにそのフェーズに立っています。愛知県が誇る高い技術力を持つ企業の皆様と手を取り合い、次世代エネルギー産業を共に築き上げていきたいと願っています。

<コメンテーターより質問>

一般的に核融合には莫大な費用がかかるイメージがありますが、そのあたりはいかがでしょうか?

久保氏:莫大な資金が必要というところは、認めざるを得ない現実かなと思っています。その中で、我々はスタートアップですので、技術開発に関しては自分たちで想像出来るような資金の中で研究開発を進めていきたいです。さらに、官に需要を作ってもらうという部分もありますので、政府と一緒に議論しながら進めていきたいです。

◆株式会社INOMER 代表取締役CEO 桂 典史 氏

INOMERは、片まひ患者を中心とした、運動機能が低下した方、低下しつつある方へ提供する歩行リハビリ用ロボット装具の社会実装を目指しています。日常的にロボットを身につけ、意のままに動くことで、自分らしく豊かに生きる世界を作りたい―私たちはそんなビジョンを掲げています。現在、要介護認定者は日本に約700万人にのぼり、突然の身体機能の低下は本人だけでなく家族、医療従事者や国にも大きな負担を与える深刻な社会課題です。最近では、医療施設による短期間での在宅復帰の推進により、十分なケアを受けられない「リハビリ難民」が200万人以上いると言われています。

こうした状況に対し、我々が開発する着るロボット「inoGear HE-1」でリハビリ領域はもちろん、介護予防に貢献していきたいと思っています。患者さん、リハビリの専門職である理学療法士さん、医療施設に対して徹底的にヒアリングをして開発をしてきました。

特徴の一つに、マニュアルで理学療法士さんに設定をしてもらうことで、歩行がどのように変わったかというデータが蓄積されていく仕組みがあります。介助設定と歩行変化を管理・可視化出来るアプリを活用しながら、患者・医師・理学療法士の間でデータを共有することで、リハビリの質向上・効率化を目指していきます。つまり、理学療法士の技をDX化して、データ活用するエコシステムを構築していきたいです。

<コメンテーターより質問>

これまでも介護、看護で使う機器を開発しているスタートアップがあるとおもいますが、そこまで医療現場に投入出来ていない理由をどう考えていますか?

桂氏:我々もそこは実感しています。重い・分かりづらいといった理由で使うこと自体を敬遠されてしまうと、現場の課題解決に繋がりません。だからこそ私たちは、現場で「毎日使いたい」と思っていただける使いやすさを最優先に開発してきました。おかげさまで、弊社のロボットは「装着のしやすさ」において高い評価をいただいています。

◆株式会社Craftide 代表 大石 俊輔 氏

EUでは2030年度までに「化学肥料20%削減、化学農薬を50%削減」という環境規制が設けられました。その後、抗議活動等によってこれは断念されましたが、似たような規制は日本でも2050年までの目標として掲げられています。つまり今、「環境を守るために規制をする農業」と、「農業の生産性を上げることによって農家さんの生活をしっかりと守る」という2つを両立させる新しい農業ソリューションが必要となっています。

そこで我々が注目したのがペプチドです。ペプチドは、我々の身体のなかに存在しているタンパク質を短くした分子です。例えば乾燥に備える、もっと栄養を吸収しなさいというシグナルとしてこのペプチドを使っており、病原菌が現れた時には、この抗菌ペプチドを自分で分泌して病原菌と戦うということもしています。我々はこのようなペプチドを人工的にデザイン・制御することで、これまでにない形で農業に貢献することを目指しています。

ペプチドの最大の特長は、分解されるとアミノ酸になり、完全に無害であることです。分解されやすく、環境に残留しない、クリーンな資材であると考えています。このようなペプチドによる農業のソリューションを我々は「ペプチドファーミング」と呼んでいます。小さじ一杯3gのペプチドがあれば、小学校のグラウンド10個分ぐらいの農地をまかなうことができます。現在は、アブラナ科シロイナズナという植物を中心に実験を行っています。私たちは、この地で農業を営む皆様や研究機関と手を取り合い、「ペプチドファーミング」の社会実装を加速させていきます。

<コメンテーターより質問>

農業関連の企業にいくつか投資をする中で、「実証で時間がかかる点」に難しさを感じています。その点をどう考えていますか?

大石氏:農薬農業ソリューションの開発には長い期間がかかるのですが、基礎開発の部分を種苗メーカーさんと共に行い、苗作りをまずは最初の評価にしたいと考えています。また、協業だけではなく、自分たちで製品開発も行うことで、一日も早く現場へ届けていきたいと考えています。

さいごに

プログラムの最終発表の場でもある、Japan Deep Tech Night。各社が向き合うディープテックでの挑戦は、決して平坦な道のりではなく、一朝一夕に形にできるものではありません。ものづくりの息吹が根付くこの愛知で、地場のパートナーと手を取り合い、一歩ずつ実証を積み重ねる歩みこそが、未来を切り拓く確かな力になると信じています。愛知県から日本・世界をより豊かにする各社の挑戦に、今後ともぜひご注目ください!