ディープテックスタートアップの成長を支援することを目的とし、主にプレシード期、若しくはシード期のディープテック系スタートアップを対象として、総合的な成長サポート(メンタリング、マッチング、経営スキル研修等)を提供する愛知県主催のプログラム「Aichi Deeptech Launchpad」(以下、ADL)。 2025年度のアクセラレーションプログラムと並行し、過去に参加したスタートアップの現在に迫るインタビューを掲載します。今回は、2025年度のADLにご参加いただいている「株式会社IZANA」の代表取締役社長CEO 大前 緩奈さんにお話を伺いました。

株式会社IZANA
当社は超高感度磁気センサ技術によって、皆さまを素敵な未来社会へといざなうことを理念としております。
これまでの超高感度磁気センサは、冷却が必要で維持費がかかり、大型で場所をとり、磁気シールド環境下でしか使えないという欠点があり、「どこでも測れる」とは程遠い状況にありました。
当社は冷却不要、磁気シールド不要、小型、低消費電力でありながらも、数pT(ピコテスラ)の高い磁場感度を備えた超高感度磁気センサの独自技術により、これらの常識を覆します。
今までにない「どこでも測れて超高感度」な磁気センサ技術により、社会の様々な要求に応え、未来社会の黒子として皆さまの生活を支えること。これが私たちの使命です。
公式ウェブサイト:https://izana-tech.com/
小型化&通常環境で使用可能な超高感度磁気センサ
——「磁気センサ」が私たちの生活でどのような働きをしているのかを教えてください。
「磁気センサ」とは、磁場の変化を検知して、それを電気信号に変換する電子部品です。私たちの生活においては欠かせない基盤技術で、実はスマートフォンにも搭載されています。例えば、地図アプリ。地球が発する磁気”地磁気”というものを磁気センサが捉えることで、自分がどちらを向いているかを画面上に正しく表示できるのです。
他にも、パソコンの開け閉めをする時に画面がパッと暗くなったりしますよね。実はあれも、パソコンの中の磁気センサが開け閉めを検知しているんですよ。
——貴社が開発する、「超高感度磁気センサ」 はどのようなものでしょうか。
「超高感度磁気センサ」は、名古屋大学で長年研究されてきた「Magneto-Impedance Sensor」の技術を基本としています。 一般的なスマートフォンに搭載されている磁気センサの分解能は、およそ0.15μT(マイクロテスラ)程度です。それに対し、弊社の磁気センサは、測定原理そのものを抜本的に改善することで、pT(ピコテスラ)オーダーという、15,000倍以上の検出感度を実現しました。
弊社の技術には、4つの特長があります。
1. 超高感度:見えなかったものを可視化する まず、圧倒的な「超高感度」であること。感度が高ければ高いほど、より遠くにあるもの・より小さなものを捉えることができます。言い換えれば、「これまで見えなかったものが見えるようになる」という大きな変化を可能にしました。
2. ワイドレンジ:大きなものから小さなものまで これまでの技術では、小さなものを測ろうとすると、顕微鏡のように視野が狭くなってしまいました。そのため、小さな値を測るセンサで大きなものまで測ろうとすると、レンジオーバーで何も見えなくなっていたのです。しかし、ワイドレンジになると、小さいものも測れるし、大きいものも測れると。かつ、大きいものを高分解能(微細な違いや小さなものまで識別できる状態)で見られるようになりました。
3. 小型・軽量:冷蔵庫サイズから手のひらサイズへ 高感度な磁気計測を行おうとすれば、従来は冷蔵庫ほどの巨大な装置が必要でした。弊社の磁気センサは手のひらサイズです。このように小型化されたことで、工場の製造ラインなど、これまで設置が難しかった場所への導入が容易になりました。
4. 高ノイズ耐性:雑音の中で「必要な情報」だけを得る 一般的に、センサは感度を高めるほど、不要な情報(ノイズ)まで拾ってしまいます。私たちの技術は、あらゆる情報が入ってくる環境下でも、必要な信号だけを的確に抽出することができます。

——そのような「超高感度磁気センサ」を貴社が開発することが出来たのは、どのような技術があったからなのでしょうか。
超高感度磁気センサが開発されたのは約30年前でして、実は長年培われてきた技術です。30年前から色々な方がコツコツと研究を重ねてきた中で、その集大成がこのどこでも測れる「超高感度磁気センサ」になります。弊社の技術顧問を務める内山剛准教授は今年で名古屋大学を定年されるのですが、内山准教授の人生をかけたといっても過言ではない技術でもあります。
——産業分野での活用を教えてください。
産業分野では2つの用途があります。まずは、ADLのプログラムでも取り組んでいる製造業における「異物検出」です。製造現場における金属異物を極小サイズまで検知出来るため、製品を安全に出荷することが出来ます。
もう1つは「海のセンシング」です。海底にはケーブルなど様々なものがありますが、海底は地上と異なり、電波も光も通じず、普通のカメラでは何も見えない環境になります。そのような過酷な環境でも、磁気は使えます。そのため、海のセンシングにおいては、磁気センサは他のセンシング方法では成し得ない強力なツールとなります。
すでに、海中の構造物の保守点検等には磁気センシングが活用される場面もありますが、やはりそのサイズの大きさから複数の船舶での稼働が必須となります。私たちは、弊社の磁気センサで、この海中磁気センシングの飛躍的な省人化・低コスト化(高額な燃料・設備コストなど)を可能にしようと考えています。
このように、「今まで見られなかったものを見る」という点を軸に、様々な産業分野での可能性があるんです。
製造業にとっても消費者にとってもメリットのあるソリューション
——「異物混入」について、より詳しく教えていただけますか。
製品に異物が入ってしまうと、製品の自主回収などで企業に大きな負担がかかります。いくら綺麗な原料・材料を使ったとしても、製造ラインで異物が入ってしまっては意味が無くなってしまうのです。
これまで金属異物検知の主流は、「X線」と「渦電流」でしたが、この2つは小さく薄いもの・細いものを検知することが苦手でした。一方、磁気センサはこういったものにも対応することができます。
ただ、その扱いづらさからこれまではなかなか実現してきませんでした。小さなものを検知するために高感度な磁気センサを使おうとすると、工場で動いているモーターなどの信号も入ってきてしまいます。高感度にすればするほど余計に使いづらくなる・使える状況が限られるという、トレードオフのような状況にありました。
弊社の磁気センサは、先ほどの4つの特長から、こういった環境下での活用を可能にしたのです。
——異物混入を超高感度磁気センサにより検知することで、安全はもちろん、どのように時間短縮やコストカットが期待出来るのでしょうか。
自主回収というのはニュースにもなるほど大きなリスクで、生じる費用も膨大になり、社会的信用を損ねる事案となります。医薬品や食品ももちろん、電池に使われる化学的な部材に何かが混ざってしまうということも大きな問題になりますし、あらゆる製造業に、そのリスクを少しでも減らしたいというニーズ・想いがあります。
異物混入の高精度検知は、平時の生産効率を向上させ、自主回収や生産停止などの事業リスクを低減し、本来の製造開発へのリソースの投下を促進し、結果的に製品の値段を抑えることにも繋がります。製造業にとっても消費者にとっても非常にメリットのあるソリューションだと考えています。
脳を読み取る“テレパシー”のような技術に期待
——ヘルスケア分野での活用、今後に期待されることについてもお聞かせください。
ヘルスケア分野では、脳を読み取るという“テレパシー”のようなことが可能になります。私たちが何かを考える際、脳内の神経細胞には微弱な電気が流れます。電気が流れる場所には必ず磁場が発生しますので、この「脳が発する微弱な磁気」を捉えることができれば、言葉を発さずとも意図を読み取れる、いわば“テレパシー”のような意思伝達が可能になります。
「Brain Machine Interface」というのですが、脳と機械を直接つなぐことで、思考や意図に基づく情報の伝達を可能にする、まるで『機動戦士ガンダム』のような世界です。
——言葉が不自由な方も、その技術を使えば意思を伝えられるわけですね。
まさにそれが、私が磁気センサの社会実装を目指している理由です。私の家族が脳卒中になってしまったことがあるのですが、脳卒中になると寝たきりになることも多く、会話もままならなくなってしまいます。そのような状態でも、意思を伝え、生活を楽しんだりして欲しいという想いから、脳を読み取る技術として磁気センサに注目しました。私が磁気センサの研究をはじめるようになった原点です。
「電気で出来ること」というと、色々なことを思い浮かべると思います。磁気センサは電気と表裏一体の技術なので、電気で出来ることは基本的に磁気センサでも出来ることになります。とはいえ、磁気というのは目に見えないのでなかなか応用が進んでいなかった、まさにディープテックな世界なのです。
——貴社の超高感度磁気センサの導入コストについて教えてください。
具体的な値段はそれぞれ製品のランクによって異なります。この感度で維持費もかからないというのは、コスト面でも優位性があると考えています。弊社と同等の高感度センサを求めると、通常は維持費が月に数百万単位でかかるほか、冷却のための液体ヘリウム等を補填する必要があるなど、リソースも必要になるのですが、そういった負担が要らないというのは大きなメリットかと思います。
——どのような事業者様とお取り組みをされているのか、または期待されている取り組みイメージを教えてください。
一つ挙げると、愛知県内の医薬品製造機器商社さんと一緒に開発を行っています。ADLのプログラム期間が終了する2026年3月にはプロトタイプが発表出来るよう、今順調に進めています。医薬品分野になると、かなりの高感度となるハイエンド品を使っているのですが、もう少し下げたミドルタイプですと昨年8月頃からすでに工場の中で動いていて、日々クラウド上に磁場データを蓄積している状況です。
異物検知に関しては業種ごとのニーズがありますので、様々な業界の企業さんとどんどん新しい取り組みをしていきたいです。前述した海のセンシングにもチャレンジする予定です。日本は世界第6位の海洋面積を持っている国でもありますし、高市政権も海洋開発を頑張ろうと明言しています。新たな市場を切り拓くパートナー企業さんと共に、社会実装を進めていきたいです。
ADL参加のきっかけと、今後の展望–IZANAが目指す次のチャレンジ
——事業成長を目指す中で直面していた、会社としての課題感はどんなことがありましたか。その課題を抱えながら、このプログラムに参加した背景ついて教えてください。
開発を進めていくための、人材獲得・資金調達という課題を抱えていました。私と共同創業者と大学の技術顧問の先生の3人で開発をしていましたが、技術開発と経営の両立にもがいており、「まずは体制作りを進めたい」と考えてADLに応募しました。

プログラム採択後、キックオフでの様子
——参加期間中に印象的だった、学びがあったと感じる支援はどんなものでしたか。
特に大きかったのは、ディープテック特有の難しさを理解した上での支援です。
大きな成長に向けてVCからの資金調達の準備をしていましたが、当初私たちの事業紹介スライドは専門的すぎて「学会発表のようだ」と言われていました。これまで研究者の方ばかりに発表してきたので、ビジネスのスライドの作り方・構成の仕方が分からなかったんですね。メンタリングでは一緒にスライドを見ながら1ページずつアドバイスをいただいて、投資家向けの構成に刷新できました。
また、CICさん主催の「Deeptech Career Fair 2025」への参加を通じて、初めて本格的なリクルート活動を行い、非常に心強いメンバーと出会うことができました。資金調達したらVCさんが良い人を紹介してくれると考えていたほど、研究や開発以外の事は何もわかりませんでした。そもそも「採用イベント等への参加が必要」ということすら知らなかった私たちにとって、実際に現場で採用活動を行う経験から、今後の採用活動のヒントもいただきました。
スライド作成も採用も、技術畑のメンバー中心だと、なかなか目がいかないんですよね。その他も法律、労務、広報など、あらゆる分野の方から都度違う視点でアドバイスをいただけて、本当にありがたかったです。
——体制拡充に向けて、こんな人と一緒に働きたいというビジョンはありますか?
「三方よし」の精神に共感頂ける人と一緒に働きたいです。私は滋賀県出身なのですが、近江商人の「三方よし」という、「売り手よし・買い手よし・世間よし」の精神を大切にしています。
自分と商売相手の幸せはもちろん大切ですが、私たちが幸せになることによって、社会がより良い方向に前進しなくてはいけないと思っています。
こうした想いに共感し、磁気センサという技術を通じて、自分、相手、そして世界をより良く変えていこうという熱意を持った方と、私たちが描く未来を、共に実現していけることを心から楽しみにしています。
——さいごに、貴社が描く未来像と、2026年以降の展望についてお話しください。
私たちは「磁気センサの可能性を解き放ち、新たな大航海時代を作る」というミッションを掲げています。 かつて人類が大陸を渡り、グローバル化が加速したのは「コンパス(羅針盤)」があったからなんです。磁気センサは一見するとすごく地味な技術ですが、ただ私たちの技術も、大航海時代現代におけるコンパスのように、時代歴史を変える存在になろうりたいと本気で考えています。
2026年は資金調達も控えています。が、足元では製造業の課題解決に取り組み、将来的には日本の重要な資源である「海」の開発、そして脳科学の分野へ取り組みを広げます。
目立たなくていい。自分たちの技術で、愛知というモノづくりの地 愛知から、日本、そして世界へとの可能性を広げていきます。
