ディープテックスタートアップの成長を支援することを目的とし、主にプレシード期、若しくはシード期のディープテック系スタートアップを対象として、総合的な成長サポート(メンタリング、マッチング、経営スキル研修等)を提供する愛知県主催のプログラム「Aichi Deeptech Launchpad」(以下、ADL)。 2025年度のアクセラレーションプログラムと並行し、過去に参加したスタートアップの現在に迫るインタビューを掲載します。今回は、「株式会社FerroptoCure」(以下、FerroptoCure)の代表取締役CEO 大槻雄士さんにお話を伺いました。

株式会社FerroptoCure

「フェロトーシス創薬で病気を治す」

私たちがターゲットにする「フェロトーシス」はがんやアルツハイマー病など、様々な疾患に関わることが報告され、注目されています。

長年の研究を通じ、私たちはフェロトーシスを活用した抗がん剤をつくりました。がんで苦しむ患者さんに1秒でも早くこの治療薬を届けたい、がんで苦しむ人をなくしたい、その想いを胸に開発を進めています。

そして、これまでのフェロトーシス研究のノウハウを活かし、がんだけでなく、その他の病気の治療薬もつくり、みんなが安心して健康に過ごせる社会づくりに貢献することを目指しています。

公式ウェブサイト:https://ferroptocure.com/

「がんを治る病気に」外科医から研究員、そして起業

——貴社の事業紹介の背景として、「フェロトーシス」の制御メカニズムを破綻させる抗がん剤の研究について、できるだけ易しくお話を伺えますか。

フェロトーシスはがんやアルツハイマー病など、様々な疾患に関わることが報告され、注目されています。このフェロトーシスが何かというと、酸化ストレスによって引き起こされる一種の “細胞の死に方”です。我々はこの現象を上手く利用し、「がん細胞に意図的にフェロトーシスを引き起こすことで、がん細胞を倒す」そんな抗がん剤の開発に取り組んでいます。

ここに取り組む理由は、大きく2つあります。1つが「フェロトーシスが抑え込まれた状態」は、がん細胞が生き残るメカニズムとして、がん細胞の生き残り戦略の重要なポイントであるとサイエンス的に注目されていること。もう1つが、「フェロトーシスを抑え込む」ということが、抗がん剤が効かなくなる原因でもあるのではないかと注目されていることです。

「フェロトーシスを抑え込む」、つまりがん化した細胞が生き残ってしまうメカニズムを壊して、がん細胞に対し意図的にフェロトーシスを起こすことができれば、がん細胞の生存のメカニズムを根本から壊せるという考え方です。細胞の生存に必須であるフェロトーシス抑制そのものを根本から壊すということは、薬が効かなくなるメカニズムすら壊れるということです。強力な抗がん剤になるのではと考えています。

「”酸化ストレス”によって細胞が死ぬ」という事実は、数十年前からあったらしいのですが、フェロトーシスという名前がついてきちんと論文で定義づけられたのは2012年頃と最近のことです。

——フェロトーシス誘導療法が、新たながん治療戦略として注目されているとのことですが、国内外の概況について(研究面・事業面)からお話しいただけますでしょうか。

研究面ですと、国内にもアカデミアの先生が複数いらっしゃいます。ただ、事業化として行なっている所は少なく、この研究を用いた抗がん剤開発をメインでやっている会社はあまりいないと思います。

グローバルで見ても、研究機関として行なっているケースはたくさんありますが、会社を起こす所までの事例は多くはないと思います。

——フェロトーシスを活用した抗がん剤開発を事業化することは、それだけハードルが高いということでしょうか。

我々も会社としてはまだ3歳なので大それたことは言えないのですが、3年前に比べると現在の方が研究の認知度も上がっていますし、学部の先生が会社を設立するということも一般的になっているかなと思います。

ただ、我々のやっている抗がん剤のメカニズムは、世界初のものとなります。すでにわかっているメカニズムの薬を作るのではなく、未知のメカニズムの抗がん剤を作るという点において、かなり大変だよねという意見は多く言われてきました。

——そんな中で、貴社がこの領域を目指される理由、FerroptoCureだからこその優位性はどんなところにあるのでしょうか。

やはり一番大きいのは医学部で長年培ってきたノウハウがある点だと思います。弊社は慶應義塾大学医学部発のスタートアップですので、大学の研究室時代からフェロトーシス関連、抗がん剤の開発に繋がるがんの研究をしていました。アカデミア5名で立ち上げたので、やはり蓄積されたノウハウの部分は大きいですね。

——その5人で起業しようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

フェロトーシスを活用した抗がん剤の実用化に向けて走りましょうとなった時に、最初に必要だったのが資金でした。アカデミアの助成金では満足のいく開発、患者さんに投与する臨床研究を加速出来ないので、自分たちで起業してスタートアップとして、必要な資金を集めていこうと考えたことが理由です。

——起業にあたりどのような点にチャレンジを感じられましたか。

会社を立ち上げること自体は問題なかったのですが、資金調達をして研究開発を進めるという点においては不慣れで苦労したことがありました。新しい抗がん剤の実用化というゴールから逆算して計画を立て、それに従って動いていくというのは大学の研究の仕方とはかなり違う部分がありますね。でも、自分たちが研究している新薬が社会実装に向かって走っているというやりがいが何よりも大きかったです。

僕がこの研究の道に進んだ理由は、外科医時代の経験にあります。

外科医として、がん患者さん1人1人と向き合って治療することは出来るのです。でもそれを続けていても、がんという病気自体を治すことは出来ないなとずっと感じていました。がん患者さんを治すだけではなく、”がんを治る病気にする”にはどうすれば良いのだろうと考えた時に、新しい治療薬を作るという研究に1回飛び込んでみようと、慶應義塾大学医学部のラボに入りました。がんの治療薬を作りたいという想いで研究者になり、研究者の次はビジネスへというのは自然な流れでしたね。

写真提供:株式会社FerroptoCure

フェロトーシスをハブとして、アルツハイマー病、パーキンソン病の治療へ

——がんや神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)、肝炎(NASH)と幅広く可能性があるとのことですが、この新薬によってどう助けられるのでしょうか。

フェロトーシスという細胞の死に方のメカニズムが、がん以外の色々な病気にも応用出来るということが最近分かってきました。パーキンソン病やアルツハイマー病の方は、フェロトーシスを“止めてあげること”で病気が予防出来たり、治ったりする可能性があるということです。

このようにフェロトーシスという現象は疾患によって「誘導すべきか(がん治療)」、「抑制すべきか(神経変性疾患治療など)」という真逆のアプローチを取ることができます。

僕らは長年、慶應義塾大学医学部のラボで研究をしているので、フェロトーシスを引き起こすノウハウも、止めるノウハウも両方持っています。メカニズム的には真逆なのですが、フェロトーシスというものをハブにして色々な病気の治療薬を作っていけたらと思っています。

——どのような企業、医療機関と連携をして事業推進をされているのでしょうか。

現在行っている治験では、国立がん研究センター、慶應義塾大学、がん研有明病院、愛知県の藤田医科大学と連携しています。それ以外にも国内外のアカデミアと連携をしており、いずれも患者さんへの治療薬の開発のために一緒に走ってもらっています。

治験には第I相臨床試験(Phase I)、第II相臨床試験(Phase II)、第III相臨床試験(Phase III)という3つのステップがあり、最初に評価されるのは安全性の部分になります。通常、がん以外の病気での治験における安全性評価というのは、「健常時に薬を飲んでもらって、副作用が出なければ良い」という形で評価されます。一方でがんの場合はがん患者さんに飲んでもらい、副作用がどうなるかという点を見るので、少し特殊で、ハードルも高くなります。

——現在貴社で第I相臨床試験段階まで進んでいるのが、乳がん全体の約2割を占める難治性がん「トリプルネガティブ乳がん」の治療薬ということですが、今後は別のがんにも研究を広げていくというイメージでしょうか。

現在治験を行っている治療薬については、基礎研究のデータで、「トリプルネガティブ乳がん」以外の乳がんをはじめ、様々ながんに効くということが明らかになっています。このデータを持って全てのがんに対して一気に薬剤承認、薬事承認を取りに行きたい気持ちはあるのですが、がん種ごとに臨床試験をする必要があります。一つの臨床試験、Phase IからPhase IIIまで行うには100億円ほどの資金がかかるので一気に行うことが難しいのです。

戦略として、まず乳がんに絞って臨床試験を行い、承認されてからその実績をもとに次へと進めていきたいと思っています。

——今年のはじめにはHello Tomorrow の「Deep Tech Pioneer」にも選出されたとのこと、本プログラムの継続支援にもご参加いただき、海外展開を積極的に進められていますが、今後の海外展開についてもお聞かせいただけますか。

新しい抗がん剤を作っていますので、当然ながら日本だけではなく世界中で使えるものを目指しています。薬剤承認も日本だけではなく、アメリカ、ヨーロッパとグローバルに取っていく想定をして準備を進めています。

基本的に、製薬メーカーさんにライセンスアウトして、製薬メーカーさんがマーケットに入れていくというビジネスモデルになります。

直近でも、グローバルの製薬メーカーさんと共同研究やライセンスの話を進めているのですが、これまでの治験では日本人のデータしか無いので、人種によっての薬の効き方を調べるために、来年から海外でも臨床試験を行う計画です。

——開発のパイプラインを動物にも応用するプロジェクトを進めているそうですが、こちらについても教えてください。

新薬を作る流れとして、まず細胞での研究、その後動物モデルでの研究、そして人間で臨床試験をし、実用化されます。この過程で一度動物に投与をしているわけです。一度動物の体を経ているのだから、そのまま動物の薬として使うことが出来ると考え、動物への応用プロジェクトを進めることにしました。そもそもがんになる動物は限られていますが、メインの対象は犬を想定しています。ペットの命を救ったり病を軽くしたりすることが出来たら、多くの人の心をも助けられるのではないかと考えています

ADL参加からの現在地「いち早く患者さんに良い薬を届けることが使命」

——本プログラムへの参加を検討いただいた際に、事業成長を目指す中で直面していた課題はどんなことがありましたか。

最初に参加させていただいた2023年は、会社設立一年ほどの頃でした。資金調達、会社の組織作り、開発面でも治験を始める前の諸々の準備について相談出来る場所を求めていました。

2024年時は資金調達1回目が終わってからの参加になるので、先ほどお話ししたような海外展開を見据えた部分、追加の資金調達など、一つフェーズが進んでステップアップするために参加しました。

——参加期間中に貴社が意識的に取り組まれたこと、得られた気付きなどもあれば教えてください。

リアルでのピッチイベント等で、ネットワークを広げさせていただいたことがまず大きなポイントだと思います。そして、とても丁寧にメンタリングをしていただけるところもありがかったです。月1回ニーズを拾い直してもらって、方針調整をして、こちらが求めているその道のエキスパートの方を連れてきてくださるというのは、他のプログラムに無い魅力だと思います。

我々はディープテックで、かつ未知な領域の開発をしているので、質問が専門的になりがちですが、ADLのプログラムではしっかりと専門家の方と繋げていただけました。感謝しています。参加中に意識していたのは、「プログラムを使い倒す」というところかなと思います(笑)。困ったことや質問はとりあえず事務局に相談すること、そうすると応えてくれます。その姿勢で参加させていただいていましたね。

写真提供:株式会社FerroptoCure

——支援終了後から、現在までの進展についてもお聞かせいただけますか。

継続して今も支援していただいている部分はありますが、本採択終了後からの現在地でいうと、海外展開・そしてシリーズAの資金調達を実施出来たことは大きな進捗だと思います。

8月にはテレビ東京の番組で取り上げていただいて、たくさんの企業から問い合わせをいただきました。その反響を受け、今も困っている方が非常に多く、抗がん剤治療の進歩というのは非常にニーズが高いんだなと改めて実感しています。いち早く、たくさんの患者さんに良い薬を届けたいです。それが僕らの使命だと思っています。新薬の開発というものは時間がかかる事業ですから、精神的にも金銭的にも開発的にも、息切れしないようにすることが一番大切だなと考えています。

——プログラムの参加を通じて、愛知県におけるディープテックがさらに発展していく上で、何か感じられたことがあればお話しいただけますか。

我々の領域のプレイヤーはまだまだ少ないので、医療系ディープテックのプレイヤーが増えていくと、もっと活発な情報交換に繋がり、活動しやすくなるのではと感じます。愛知県は、医療系の研究機関が多く、手前味噌ながら藤田医科大もそうですし、名古屋大学のパワーもとても強いと思います。創薬領域、創薬業界のリソースやプレイヤーがもっと愛知県で増えて、愛知県発の研究シーズがより事業化に向けて進んでいくと良いなと思います。

——ADL 関係者・本年度の採択者へのメッセージをお願いします。

まだ3年目の会社なので先輩面して何かを言えるほどではないのですが、愛知県はディープテックに関するリソースのある地域だと感じています。特にモビリティなどは強いですよね。そういった愛知県という”場所の特性”をしっかりと活かせるように、皆さん大いに要求をぶつけて何でも相談していって欲しいと思います。

また、弊社では、海外で事業開発が出来る方を探しています。ご興味・ご協力いただける方がいらっしゃったら、ぜひご連絡をいただきたいです。今後とも、よろしくお願いします。