ディープテックスタートアップの成長を支援することを目的とし、主にプレシード期、若しくはシード期のディープテック系スタートアップを対象として、総合的な成長サポート(メンタリング、マッチング、経営スキル研修等)を提供する愛知県主催のプログラム「Aichi Deeptech Launchpad」(以下、ADL)。 2025年度のアクセラレーションプログラムと並行し、過去に参加したスタートアップの現在に迫るインタビューを掲載します。今回は、2024年度にADLにご参加いただいた「株式会社ソラマテリアル」の代表取締役 大里智樹さんにお話を伺いました。

【株式会社ソラマテリアル】

名古屋大学発のディープテックスタートアップとして、空気に浮くほど軽い素材「超軽量材」の研究開発及び製品開発を行っています。

「超軽量材」は空気に浮くほどの軽さを持ちながら、断熱性や吸音性、電磁波遮蔽/吸収性などの機能性を有しており、「超軽量」×「機能性」というユニークな特徴を持つ素材です。 主な適用先は、航空宇宙分野、エアモビリティなど「軽さ」が重要になる分野を想定しており、機体の更なる軽量化に貢献します。 また自動車系や住宅建材等様々な用途に対して適用を検討しており、裾野の広い”素材”という商材の特性を活かした製品開発を行っていきます。

公式ウェブサイト:https://sora-materials.com

「空気に浮くほど軽い」超軽量材が航空領域を変える

――株式会社ソラマテリアル(以下、ソラマテリアル)の事業内容、この事業を通して、どのようなことを目指されているのかを教えてください。

「株式会社ソラマテリアル」は名古屋大学発の、素材開発を行っているスタートアップです。弊社のヴィジョンとして「マテリアルでソラを身近に」というメッセージを掲げ、空気の重さの0.5~10倍という圧倒的な軽さと機能性をもつ素材「超軽量材」の開発と、その素材の実用化・事業化を目指しています。

普段の生活では、なかなか意識することがないと思うのですが、空気も物質ですので重さがあります。 弊社で提供している素材が“空気よりも軽い”というのは、同じ体積の空気と比較すると、その空気よりも軽い素材であるということになります。

――この超軽量材が断熱性や吸音性に優れているというのは、どのような原理になりますか?

断熱性・吸音性・電磁波遮蔽/吸収性という3つの特性があり、材料の構造がポイントになっています。すごくざっくりとした言い方をすると、我々が開発している素材は非常に穴の細かい、スポンジの様な構造をしています。本当に細かい穴がたくさん空いていることで、これらの特性を発揮する仕組みになっています。その上で、他の既存の材料と比較した時に、非常に軽く作れているという所が弊社の素材の特長です。

――名古屋大学発のスタートアップという強みもあるのでしょうか。

元々この技術自体は名古屋大学の上野智永先生が開発したもので、それをベースに技術の事業化、社会実装という部分を弊社が進めています。大学発のスタートアップの良さの1つとしては、最先端の技術を武器に世界で戦っていけることかなと感じています。世界で見てもユニークな技術を軸にしているので、優位性の高さが強みです。

上に乗せても花びらが崩れないくらい軽量な超軽量材料

軽量化されることで燃費が上がり、環境分野への配慮も

――超軽量材によってどのようなことが可能になりますか。

私は元々重工メーカーで飛行機関連の開発をしていたのですが、この領域において「重さ」というのは非常に大きいテーマになっています。いかに軽く出来るかというところを、設計から製造に至るまで様々な角度で工夫し、苦心しており、“物が浮く領域”では軽量化に対して強いニーズがあります。

――世界的にも“軽量化”が大きなキーワードということですね。

新しいモデルの飛行機が出来た時に「どれだけ軽い材料が使われているか」という部分はよくニュースにもなっています。燃費が良くなるということは、いわゆるCO2削減にも繋がってきますので、環境配慮という文脈でも注目されているテーマです。   弊社も、海外展開を積極的に進めようとしています。概算にはなりますが、年間の飛行機の生産量が1,000機から3,000機ぐらいと言われています。そのうちの多くを、「ボーイング(ザ ボーイング・カンパニー)」と「エアバス」が占めているので、関連する企業さまに対して、「ソラマテリアルの素材を使いませんか」とご提案している状況です

日仏政府主催の脱炭素勉強会への登壇(フランス)

――同じく、宇宙領域でも軽量化が求められているのでしょうか。

宇宙領域でも、軽い方が良い理由が2つあります。 1点目は、打ち上げ段階に関連します。打ち上げる段階で機体が重いと大変なことが多く、飛行機よりもロケットの打ち上げの方が重さにシビアだったりします。2点目は、宇宙空間において、ものを動かす仕組みに関連します。宇宙に行った後で無重力になった場合も、ものを動かすには「慣性の法則」というものが働くので、結局軽い方が良いということになります。無重力状態でものを動かそうとした時にも重いものだと大きい力が必要になるので、軽量化は重要になります。

――航空宇宙、モビリティ領域等の軽量化が進むことで、将来的に私たちの生活にどのような影響がありそうですか?

例えば、我々は飛行機の断熱材使用を目指して素材の開発を進めており、これによって飛行機自体の重さを軽くすることが出来ます。航空会社にもよりますが、飛行機自体が軽くなることで燃料の消費も減り、運賃や運搬料金が安くなるかもしれません。また、乗せられる荷物の量を増やすことも出来るので、もっと多くの荷物を運べるようになることもあるかと思います。

実際に空気の上に浮かぶ超軽量材料

――ピッチ(※)にて、「素材分野は大きく産業を変えていく力がある」という言葉をおっしゃられていましたが、大里さんがそういった考えに辿り着いたきっかけはあるのでしょうか。

個人的なお話になりますが、大学時代に「鳥人間コンテスト選手権大会」を目指すサークルに入っていまして、最終的にはパイロットも経験しました。現在の鳥人間コンテストでは、カーボンなど炭素繊維系の材料がよく使われるのですが、それ以前は金属、アルミ材料等を使い重くなってしまうことが多かったそうです。なので、今の記録は昔と比べようがないほど飛距離が伸びています。カーボン材料が入るようになって、一気に記録が伸びるということを目の当たりにし、「素材が変わると出来ることも変わる」のだと実感しました。今、飛行機系の分野で複合材料がたくさん使われていますし、素材が変わると世の中も変えられるということを感じています。

※E&E PITCH 宇宙×環境エネルギーの融合領域におけるスタートアップピッチ開催レポート【2025.6.4】

https://note.com/eandecommunity/n/nfec40c4e3433

Japan Deep Tech Night での登壇

ADL参加のきっかけと、現在について

――ADLご参加当時、抱えていた課題感と解決に向けてプログラムを選ばれた理由を教えてください。

私は技術系だったので、会社を立ち上げてもビジネスに関することは何も分からないという状況がありました。ADLに参加することで、事業計画をどう立てていけばいいのか、どういう人にどんな話を伝えれば良いのか、など初歩的な所からアドバイスをいただきながら進めることが出来ました。事業計画をExcelに書いて、見ていただいて、修正して…という作業を隔週ぐらいでやり取りして、細かく教えていただきました。

また、ADLから推薦をいただいて「ILS(Innovation Leaders Summit)」というイベントに参加したのですが、そこで色々な企業の方々と商談をすることが出来て、我々の商材がどんな所にニーズがあるのか、どういった領域で活かせるかということを具体化ができ、認知も広まりました。そこで、最優秀賞(トップ・オブ・スタートアップ)を受賞出来たことも大きな出来事の一つです。

――意識的に取り組まれていたことはありますか?

とにかく素直に聞こうと思っていました。ビジネス、経営においては本当に素人でしたので、出来ていないこと、分からないことは何でも聞いていました。それに対して「こうしたら良いのではないか」、「こういう人を紹介出来ます」という形で繋いでいただいたので、困っていることをすぐ相談出来てありがたかったです。

知見を持たれている方による手助けや、支援のメニューが豊富だと思いますので、これからADLに参加される方も、困ったことは素直に聞いて欲しいなと思います。

――支援終了後から、現在までの進展はいかがですか。

素材の実用化・事業化については、断熱・吸音・電磁波のマネジメント素材の製品化を進めています。様々な企業のみなさまとアイデア出しをしながら、具体的な製品利用や、それを目指した共同研究への取り組みなどを進めており、適用先となる具体的な候補も見えてきている状況です。

飛行機への導入は10年後、2035年頃には進めたいと思っています。それ以外の電磁波のマネジメント素材さらに早く製品化をして、我々の技術が役立てる領域でニーズをしっかりと汲み取り展開していきたいです。

また、社内の組織づくりとしては、スタッフを増やしていきたいと思っています。ソフトウェア分野と違い、我々のものづくりの領域は副業などでライトに関わってもらうことが難しいので、会社のヴィジョンを伝えながら、人材集めも頑張らないといけないなと考えています。

超軽量材料の浮遊実験の様子

――メディアへのご出演、E&E PITCH 宇宙×環境エネルギーの融合領域におけるスタートアップピッチにて最優秀賞を受賞されるなど注目を集めていらっしゃいますね。

ありがとうございます。「空気に浮くほど軽い」というキャッチーさ、他に無い素材の特性に興味を持っていただいているなという実感があります。一方で、「素材が新しくなったことで、結局どういうことが出来るのか」というイメージがしづらかったり、消費者と少し距離を感じている部分があったりすると思いますので、ここのギャップを上手く繋げていけるようにしたいと思っています。

――外部の方と関わることでの気付きや学びはありましたか?

ADLに参加されているスタートアップは、本当に色々な技術、さまざまな角度から「世の中を良くしていこう」と進んでいる方ばかりです。かなり刺激をいただきましたし、どうビジネスにしていくかという部分でも学べる所が多かったと感じています。

弊社で開発している素材はモビリティ領域で活用することを考えていたのですが、「断熱材を服飾のジャンルで使えないか」という意見をもらって、新たな気付きにもなりました。色々な使い方が出来るということが素材というプロダクトの良さでもありますし、我々の材料にはたくさんの特性がありますので、モビリティ領域に限らず、幅広く使える可能性があるなと気付くことが出来ました。

国際展示会出展時の様子

今後の展望 – ソラマテリアルが目指す次のチャレンジ

――プログラム参加後、大変だったことはありますか?

企業との交渉や契約など初めてのことが多く、メンターや鮫島先生(弁護士法人内田・鮫島法律事務所)等の皆さんにガイドラインを引いて頂くなどのサポートをしていただきました。初めてのことで、進め方・課題等を把握しきれていない場合にも、整理していただきながら知見をいただけることがとてもありがたかったです。

――愛知県におけるディープテックがさらに発展していく上で思うことや、土地が故の課題感など感じていることがあれば教えてください。

我々がその分野だったということもありますが、「製造業の強さ」というのは他の地域と比較しても、愛知県の特徴だと思います。愛知県のものづくりへの解像度の高さ、支援の充実さを上手く活用していき、地元の企業の方々とも連携をしながら、新しい材料を使って、新しい付加価値を見出していきたいです。そうすることで、より大きい市場、世界を狙っていけると思います。

一方で、これは良し悪しの部分があると思うのですが、ものづくりに対するプログラムが多い分、相対的にソフトウェア系の領域は伸び代があるような気がします。東京ではソフトウェア系領域がかなり充実していると感じていますので、他のエリアとも上手に連携していくことが必要なのかなと感じています。

インタビューの当日の様子

――次のチャレンジ、貴社が描く未来像について教えてください。

「素材から社会が変わる」というのは、個人的にも面白いことだなと感じています。冒頭にも紹介しましたが、「マテリアルで空を身近に」というヴィジョンのもと、この超軽量材を使うことで、たくさんの方が空や宇宙にアクセスしやすい社会を目指します。超軽量化材を使うことで燃料の使用量を抑えることが可能になるので、環境問題にも貢献できると考えています。

――ADL 関係者、本年度の採択者へメッセージをお願いします。

現在も継続的にサポートしていただいているので大変助かっています。昨年度にご支援いただいた身として、メンターの方々含め、関わる方が皆さん本当に協力的で、たくさん押し上げていただきました。本年度の採択者の皆さんも、背中を預けるというか、素直に頼ってみると良いのではないかと思います。公開情報に載っていない支援をご提案いただけることもありますので、何でも相談してみて欲しいです。